【物流の物理レイヤー】日本列島を巨大な基板に変えた「ハブ&スポーク」の魔術

ヤマト運輸

こんにちは、カジです。

前回は、宅急便というシステムを動かす「セールスドライバー(最強のインターフェース)」と「NEKOシステム(神経網)」について解剖しました。

しかし、どれほど優秀なドライバーがいて、高度な情報処理が行われても、それだけでは荷物は届きません。物理的にモノを移動させる「足」と「道」が必要です。

ITの世界に例えるなら、インターネット上でデータ(パケット)が瞬時に届くのは、世界中に張り巡らされた光ファイバーケーブルや、データを中継するルーターといった「物理レイヤー」が存在するからです。

第3回となる今回は、ヤマト運輸が日本列島という物理空間に構築した、驚くべき「ネットワーク・トポロジー(接続形態)」の秘密に迫ります。

彼らは、いかにして「翌日配達」という、物理法則に挑むようなアルゴリズムを確立したのでしょうか。

※この記事に掲載されている挿絵は、内容の理解を助けるためのイメージであり、実在の人物、製品、団体等を示すものではありません。

「ハブ&スポーク」という名のルーティング・アルゴリズム

皆さんは、「ハブ&スポーク」という言葉をご存じでしょうか。

これは、自転車の車輪(スポーク)が中心の軸(ハブ)に集まるように、拠点を中心に放射状にネットワークを組む方式のことです。

宅急便が登場する以前の物流は、A地点からB地点へ、トラックが直接走る「リレー方式」に近いものでした。しかし、これでは全国網羅しようとすると、組み合わせが膨大になり、効率が悪すぎます。

そこで小倉昌男氏が導入したのが、航空貨物などのシステムを参考にした「ハブ&スポーク」の徹底でした。

仕組みはこうです。

まず、各家庭(エッジ)から集められた荷物は、地域の営業所を経由して、「ベース」と呼ばれる巨大な物流ターミナル(ハブ)に集められます。

夜になると、全国のハブからハブへと、大型トレーラー(バックボーン回線)が高速で移動します。

そして翌朝、到着したハブから再び地域の営業所へと分配され、各家庭へと届けられるのです。

これはまさに、インターネットのパケット通信そのものです。

個々の荷物(パケット)は、最短経路を自律的に選ぶのではなく、一度巨大なルーター(ベース)に集約され、太い回線(幹線輸送)を通って、再び末端へと配送される。

この極めて論理的な「ルーティング・アルゴリズム」が確立されたからこそ、日本中どこからどこへ送っても「翌日」に届くという魔法が可能になったのです。

真夜中の「スイッチング」処理

私たちが寝静まった真夜中、ヤマト運輸の「ベース」では、壮絶な情報処理ならぬ「物理処理」が行われています。

全国から集まった何万、何十万という荷物が、ベルトコンベアの上を高速で流れ、行き先別に自動で仕分けられていく。これを物流用語で「クロスドッキング」と言いますが、私には巨大なCPUの中で行われるデータの「スイッチング処理」に見えてなりません。

特に象徴的なのが、東京にある「羽田クロノゲート」です。

ここは単なる物流ターミナルではありません。24時間365日稼働し、陸・海・空すべてのモードを結節する、日本最大級の「スーパー・ルーター」です。

ここが凄いのは、単に荷物を右から左へ流すだけではない点です。

例えば、家電製品の修理や、医療機器の洗浄・メンテナンスといった「付加価値機能」まで内包しています。

荷物を預かり、移動している間に修理を済ませて、翌日には届ける。

これは、サーバーの中でデータを単に転送するだけでなく、加工・処理まで行ってから返す「クラウド・コンピューティング」の発想に非常に近いです。物流拠点を「通過点」から「価値を生む場所」へと再定義したのです。

止まらない「社会の血流」を維持するために

ヤマト運輸のトラックを見ていると、日本という国の「血流」を見ているような気分になります。

血液が止まれば人間が死んでしまうように、物流が止まれば社会は機能を停止します。

地震や豪雨などの災害時、彼らのネットワークの強靭さ(レジリエンス)が試されます。

一部のルートが遮断されても、まるで生き物のように迂回ルートを瞬時に構築し、荷物を届ける。それは、彼らのネットワークが中央集権的でありながら、現場の自律的な判断(分散処理)も許容されているからこそ可能な芸当です。

日本列島という、山がちで複雑な地形の上に、これほど高密度で正確な物理ネットワークを構築し、維持し続けていること。

エンジニアとして、その設計の美しさと、それを支える現場の泥臭い努力に、ただただ敬服するばかりです。

さて、これまで3回にわたり、宅急便というシステムの「設計」「実装」「ネットワーク」を見てきました。

しかし、どんな優れたシステムも、時代の変化という「外部環境」の影響を受けます。

次回は、Eコマースの台頭という巨大な津波が、この完璧に見えたシステムにどのような負荷をかけ、どう変質を迫ったのか。システムの「限界」と「進化」の物語に踏み込んでいきたいと思います。

「箱」一つが、世界経済のOSを書き換えた。

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