【サイゼリヤの組織論】なぜノルマがないのに、従業員は輝くのか?人材育成システム

サイゼリヤ

こんにちは、カジです。

前回の探求では、サイゼリヤの店舗を一つの「工場」として捉え、1秒単位で効率を追求する、驚異的な科学的アプローチを解剖しました。しかし、ここで一つの大きな矛盾に突き当たります。

あれほどまでにマニュアル化され、効率を突き詰めた環境は、働く人々にとっては窮屈で、モチベーションを削ぐものではないのでしょうか。普通に考えれば、従業員は巨大なシステムの「歯車」にされてしまうはずです。

ところが、サイゼリヤは違いました。彼らは、多くの企業が常識とする「売上ノルマ」を撤廃し、それでもなお、業界平均を遥かに凌駕する生産性を叩き出しているのです。

ITエンジニアである私は、この現象に強烈な興味を惹かれずにはいられません。これは、単なる性善説や精神論ではありません。従業員一人ひとりを、自律的に思考し、改善を続ける独立した「プロセッサ」として機能させる、極めて高度な「組織OS(オペレーティングシステム)」が、そこには存在していました。

今回は、この超効率的なシステムを、人間味あふれる形で動かし続ける、驚くべき組織と人材育成の秘密に迫ります。

※この記事に掲載されている挿絵は、内容の理解を助けるためのイメージであり、実在の人物、製品、団体等を示すものではありません。

なぜ、サイゼリヤには「売上目標」がないのか?

サイゼリヤは、店舗や店長に売上目標を課さない。これは、彼らの組織論の根幹をなす、最も象徴的なルールです。

なぜなら、売上とは天候や景気といった、現場ではコントロール不能な「外部要因」に大きく左右される、極めて不安定な指標だからです。ITシステムに例えるなら、サーバーの処理能力を評価するのに、外部ネットワークの気まぐれなトラフィック量だけを当てにするようなものです。

これでは、正確なパフォーマンス測定はできません。そこでサイゼリヤは、あえてこの不確実な指標を評価軸から外し、従業員が自らの努力で直接コントロールできる「内部プロセス」の改善に、意識を集中させることにしたのです。

この思想転換こそが、従業員を短期的な売上追求のプレッシャーから解放し、長期的な視点での顧客満足度向上や、本質的な業務改善に取り組ませる土壌となっているのです。

究極の指標「人時生産性」という名のコンパス

では、売上目標の代わりに、彼らは何を道しるべにしているのでしょうか。

それが、サイゼリヤにおける唯一にして最重要のKPI、「人時生産性」です。

これは、「店舗の粗利益 ÷ 総労働時間」という、極めてシンプルな数式で算出されます。つまり、「投入した労働時間(コスト)に対して、どれだけの価値(粗利)を生み出せたか」を直接的に測る指標です。

目標値は6,000円。業界平均が2,000〜3,000円と言われる中で、これは驚異的な数値です。

このたった一つの明確な指標を、正社員からアルバイトまで、全従業員が共有します。これにより、組織全体のベクトルが「いかに賢く、速く働き、価値を生み出すか」という一点に、ピタリと合わさるのです。

自分の工夫が、直接この数値に反映される。この透明で公正な仕組みが、従業員の内発的なモチベーション、すなわち「もっと良くしたい」という改善への意欲を強力に引き出しているのです。

全従業員を「問題解決者」にする仕組み

この組織OSの背景にあるのが、「動機付け工学」という思想です。

従業員に、自分で管理できる明確な指標(人時生産性)と、その成果が正しく報われる仕組み(報酬)を与えることで、自発的に改善に取り組む「問題解決者」へと変えていく。

重要なのは、彼らが「教えられる」のではなく、自ら「できるようにする」ことに重きを置いている点です。前回の記事で解剖した、徹底的に標準化された業務プロセスは、実はこのためにあります。作業が単純化されているからこそ、誰もが問題点を発見しやすく、改善活動に参加できるのです。

店長は、売上を管理する営業マンではありません。自店のワークフローを分析し、ボトルネックを特定し、チームが解決策を実行できるよう支援する、インダストリアル・エンジニアであり、コーチなのです。

まとめ

サイゼリヤの従業員が、なぜノルマもないのに生き生きと働き、驚異的な生産性を生み出せるのか。

その答えは、売上という不確かな目標を捨て、誰もがコントロール可能な「人時生産性」という唯一のコンパスを共有することにありました。

従業員を管理するのではなく、彼らが自律的に改善を続けられる「環境」そのものを、緻密に設計する。このユニークな組織OSこそが、あの巨大な効率化システムに、温かい血を通わせる心臓部だったのです。

さて、4回にわたりサイゼリヤの内部を解剖してきました。次回はいよいよ最終回。彼らが描く壮大な「未来の設計図」に迫ります。DX、グローバル化、そして物価高騰の時代に、この巨大な経営システムはどこへ向かうのか。最後の探求に、ぜひお付き合いください。

それでは、また次の探求でお会いしましょう。

自律する『個』と『チーム』の作り方を、その原理と実践から学ぶ

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