こんにちは、カジです。
さて、今回から新たな探求の対象として、私たちにとって最も身近なレストランの一つ、「サイゼリヤ」の解剖に挑みたいと思います。ミラノ風ドリア、辛味チキン… あの驚くべき価格と、価格からは想像できない安定した品質。多くの人が一度は「なぜ、これで利益が出るのだろう?」と不思議に思ったことがあるのではないでしょうか。
その秘密は、単なる「企業努力」という言葉で片付けられるものではありません。その裏側には、創業者の正垣泰彦氏が、自身の物理学的なバックグラウンドを基に設計した、極めて合理的で、一切の無駄を排除した巨大な「経営システム」が存在するのです。
ITエンジニアである私は、この徹底された合理主義に、美しい数式を見るような興奮を覚えずにはいられません。
今回は、この巨大システムの原点である、サイゼリヤの「創業哲学」に迫ります。すべては、廃業寸前の店で起こった、一つの大胆な「実験」から始まりました。その物語を、一緒に紐解いていきましょう。
※この記事に掲載されている挿絵は、内容の理解を助けるためのイメージであり、実在の人物、製品、団体等を示すものではありません。
すべての始まりは「7割引」という名の仮説検証だった

サイゼリヤの物語は、1967年、創業者・正垣泰彦氏が学生時代に譲り受けた一軒の洋食店から始まります。しかし、立地の悪さから店は閑古鳥が鳴く状態。廃業の危機に瀕した彼が打った手は、単なる値下げではありませんでした。
全メニューの価格を、7割引にする。
これは、マーケティング的な奇策や、ヤケクソの賭けではありませんでした。東京理科大学で物理学を学んだ彼にとって、これは一つの壮大な「仮説検証」だったのです。
「もし、人々が来店しない根本原因が『価格』という障壁にあるのなら、それを取り払った時、需要は本当に生まれるのか?」
結果は、皆さんもご存知の通りです。店の外には、信じられないほどの行列ができました。この成功体験こそが、サイゼリヤというシステムの、決して揺らぐことのない基本法則(プリンシプル)となったのです。
すなわち、「価値を決めるのはお客様であり、企業の使命は、人々が良い食事を楽しむことを妨げる障壁を取り除くことである」と。ITの世界で言えば、これはユーザーが抱える根本的な課題(ペイン)を特定し、その解決に全リソースを集中するという、問題解決の王道そのものです。
「人のため」という経営OS
この原体験から生まれたのが、「人のため、正しく、仲良く」という経営理念です。これは、壁に飾るためのお題目ではありません。サイゼリヤのあらゆる意思決定を規定する、OS(オペレーティングシステム)そのものなのです。
特に象徴的なのが、「人のため」という思想です。正垣氏は「サイゼリヤが潰れたら喜ばしい」と公言しています。これは、もしサイゼリヤよりも安く、より良いものを提供する競合が現れたなら、それは社会にとって良いことだ、という意味です。自社の存続が目的ではなく、社会への貢献が目的である、という強烈なメッセージです。
このOSがあるからこそ、彼らは短期的な利益追求に走ることなく、長期的な視点で、低価格と品質を維持するためのシステム投資を続けることができるのです。
発想の転換:「足し算」ではなく「引き算」で考える

では、どうすれば低価格と品質を両立できるのか。正垣氏の答えは、ここでも逆転の発想でした。
それは、「おいしさ」や「安さ」という価値を足し算していくのではありません。
「まずさ」や「高さ」といった、お客様にとってのマイナス要素を徹底的に引き算していく、というアプローチです。
最高の味を芸術的に追求するのは、ゴールが曖昧で、終わりがありません。しかし、「品質がばらつく」「作業に無駄が多い」といったマイナス要素は、客観的な問題として特定し、科学的に解決することができます。
ITエンジニアである私は、この考え方に深く共感します。これは、完璧なプログラムを夢想するのではなく、まずバグ(欠陥)を一つひとつ潰していくことで、システムの安定性とパフォーマンスを高めていく作業に、非常によく似ています。
まとめ
サイゼリヤの驚異的な安さの原点。
それは、創業者が行った一つの「科学的な実験」と、そこから導き出された、「社会貢献を目的とする」という揺るぎない経営哲学にありました。
彼らは、魔法を使っているのではありません。物理学的な視点で、ビジネスという複雑な現象から、無駄や非効率という「ノイズ」を徹底的に取り除き続けているのです。
さて、今回はサイゼリヤの根幹をなす「哲学」というOSの部分を解剖しました。次回は、この哲学を物理的に可能にしている、もう一つの心臓部。世界中に張り巡らされた、食材の生産から加工、物流までを完全に掌握する、驚くべき「バリューチェーン」の仕組みに迫ります。
それでは、また次の探求でお会いしましょう。


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