こんにちは、カジです。
前回の記事では、KUMONが誇る「紙と鉛筆」という物理インターフェースがいかに脳科学的に優れているか、その「アナログの最強性」について解剖しました。
しかし、KUMONは決してアナログ一辺倒の頑固な組織ではありません。実は、彼らは教育業界において、極めて早い段階からテクノロジーの導入を試みてきた「ハードウェア開発企業」としての側面も持っています。
記憶にある方も多いかもしれません。かつて教室に響いていた、あの「ピ、ポ、パ」という電子音。そう、 「E-Pencil(イー・ペンシル)」 です。
そして今、その系譜は 「KUMON CONNECT」 という名の、本格的なデジタル学習プラットフォームへと進化を遂げています。
なぜ、紙の有効性を誰よりも知る彼らが、あえてデジタルの領域に踏み込んだのか。
ITエンジニアである私の目には、その狙いが単なる「ペーパーレス化」や「効率化」などではないことが、はっきりと分かります。
彼らが実装しようとしているのは、学習者の思考プロセスそのものをデータ化し、リアルタイムでデバッグする、教育史上最も野心的な 「人間拡張(ヒューマン・オーグメンテーション)」 のシステムでした。
今回は、KUMONが仕掛ける静かなるデジタル革命の正体に迫ります。
※この記事に掲載されている挿絵は、内容の理解を助けるためのイメージであり、実在の人物、製品、団体等を示すものではありません。
「E-Pencil」は、世界最小の音声サーバーだった

時計の針を少し戻しましょう。2000年代、KUMONは英語学習のために「E-Pencil」という独自のデバイスを導入しました。
プリント上の特定のアイコンをペン先でタッチすると、ネイティブスピーカーの発音が再生される。今でこそ当たり前の技術に見えますが、当時の教育現場においては画期的な発明でした。
エンジニアの視点で見ると、これは 「紙というオフライン媒体に、音声データというAPIを物理的に実装した」 ことに他なりません。
CDプレーヤーやカセットテープでは、「頭出し」というシークタイム(待ち時間)が発生します。しかし、E-Pencilは紙をタッチした瞬間に音が鳴る。つまり、ここでもKUMONが重視する「思考を中断させない(低レイテンシ)」という哲学が貫かれていたのです。
これは単なるおもちゃではなく、生徒一人ひとりの手元に「専属のネイティブ教師(音声サーバー)」を分散配置するという、極めて高度なシステム設計の勝利でした。
「KUMON CONNECT」が可視化する “思考のログ”
そして2023年、KUMONはこのデジタル戦略をさらに一段階進化させました。それが、タブレットとスタイラスペンを使った「KUMON CONNECT」です。
「結局、タブレット学習になっちゃうの?」
そう思うかもしれません。しかし、市販の学習アプリと決定的に違う点があります。それは、 「手書き」という入力インターフェースを絶対に残している 点です。
KUMON CONNECTでは、子供たちは画面上のキーボードを叩くのではなく、ペンで画面に「書く」のです。ここに、彼らのDXの本質があります。
デジタル化によって彼らが手に入れたかったもの。それは、正解・不正解という「結果」のデータではありません。
どの問題でペンが止まったか。どこで書き直したか。その筆跡の速度や筆圧はどうだったか。
これら、紙の時代には消しゴムで消えてしまっていた 「思考のプロセス(ログデータ)」 を、すべてクラウド上に保存・解析することこそが、真の目的だったのです。
指導者は「採点係」から「データアナリスト」へ

このシステムは、教室の風景も劇的に変えます。
これまでの指導者は、生徒が解き終わったプリントを採点して初めて、「あ、ここを間違えているな」と気づいていました。これはIT運用で言えば、システム障害が起きてからログを確認する「事後対応」です。
しかし、KUMON CONNECT導入後の指導者は、手元のタブレットで全生徒の学習状況をリアルタイムにモニタリングできます。
「A君、この計算の途中で手が5秒止まっているな(思考のレイテンシ検知)」
「Bさん、答えは合っているけど、筆跡が乱れているから疲れているのかもしれない(バイタル異常検知)」
指導者は、単なる「採点マシーン」から解放され、データに基づいて生徒のつまずきを予兆レベルで発見し、適切なタイミングで声をかける 「高度なデータアナリスト」 へと進化するのです。
AIに教えさせるのではなく、AI(データ)を使って、人間の指導者の能力を拡張する。
これこそが、KUMONが目指す、デジタルとアナログが融合した「未来の教育」の姿なのでしょう。
次回は、このシステムがいかにして国境を超え、世界中の子供たちにインストールされているのか。
言語や文化の壁を乗り越える、KUMONの「グローバル展開」の秘密に迫ります。

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