【星野リゾートの再生術】なぜ倒産寸前の旅館は、予約の取れない人気宿に生まれ変わるのか?

星野リゾート

こんにちは、カジです。

今回から、新たな探求の舞台として「ホテル業界」に足を踏み入れたいと思います。その主役は、日本の観光を象徴する存在となった「星野リゾート」です。

「いつかは泊まってみたい」と多くの人が憧れる、あの洗練された空間と非日常の体験。しかし、私たちが今目にしているその華やかな姿は、かつて倒産の危機に瀕した、ごく普通の温泉旅館から始まったことをご存知でしょうか。

私がこのテーマに惹かれたのは、まさにその点にあります。彼らは、魔法を使ったわけではありません。経営が傾いた施設に、ある「経営システム」をインストールすることで、その価値を再定義し、驚異的なV字回復を成し遂げてきたのです。

ITエンジニアである私は、この「再生の方程式」とも呼ぶべき手法に、心を鷲掴みにされてしまいました。今回は、星野リゾートの原点である「リゾート再生」の秘密を解剖し、彼らがいかにして奇跡を「設計」してきたのか、その物語を紐解いていきたいと思います。

※この記事に掲載されている挿絵は、内容の理解を助けるためのイメージであり、実在の人物、製品、団体等を示すものではありません。

すべての始まりは「クーデター」だった

1991年、4代目として家業を継いだ星野佳路氏が直面したのは、単なる経営不振ではありませんでした。それは、会社の資産と創業家の資産がごちゃ混ぜになった「公私混同」という、同族経営にありがちな根深い病でした。

彼が「このままでは成長できない」と改革を提言したとき、待っていたのは一族からの猛反発。そして、入社からわずか半年で会社を追放されるという、壮絶な経験をします。

しかし、物語はここで終わりません。2年後、彼は社外の株主たちの支持を得て、代表取締役に復帰します。これは、旧態依然とした経営の限界を、誰もが認めざるを得なくなった瞬間でした。この「ハードランディング」とも呼ばれる痛みを伴う決別こそが、その後の抜本的な改革の土台となったのです。

「教科書」と「データ」という武器

経営の舵取りを任されたものの、社内はまさに三重苦。致命的な人材不足、低い料理の品質、そして社員の低いモチベーション。教科書には載っていない問題の山を前に、星野氏は逆説的にも、経営理論の「教科書」に活路を見出します。

特に、聖域と化していた厨房を改革するために彼が導入したのが、顧客満足度(CS)調査でした。

それまで、若い経営者の意見には耳を貸さなかった料理人たちも、顧客からの「料理の質が低い」という客観的なデータを突きつけられ、プロとしてのプライドから品質改善に取り組まざるを得なくなりました。

ITエンジニアである私は、この一点に痺れます。これは、主観的な意見の対立という不毛な争いを、客観的なデータを導入することで解決に導いた、見事な問題解決です。この成功体験が、後の星野リゾートの「データ経営」の原点となったことは、想像に難くありません。

奇跡を「再現」するための方程式

個人の才能や情熱だけに頼っていては、奇跡を何度も起こすことはできません。星野リゾートは、リゾート再生を「再現可能なシステム」へと昇華させました。

その核心が、施設の「所有」と「運営」を分離するビジネスモデルです。不動産を持たないことで、身軽な経営を実現し、企業のエネルギーを「リゾート運営の達人になる」という一点に集中させたのです。

そして、具体的な再生プロセスは、明確な3つのステップで構成されています。

  1. データ収集とコンセプト創造: 市場調査で顧客を定義し、その施設ならではの魅力的なコンセプトを創る。
  2. サービス設計: コンセプトに基づき、顧客満足度を最大化するサービスを設計する。
  3. 収益化と改善: 高い満足度がリピーターを呼び、収益が向上。その結果をCSデータで常に検証し、改善を続ける。

このサイクルを高速で回すことで、彼らは次々と再生案件を成功に導いていきました。

哲学の結晶「星のや軽井沢」

この「再生の方程式」と、星野リゾートの哲学が、一つの結晶となったのが、2005年に開業した「星のや軽井沢」です。

そのコンセプトは「もうひとつの日本」。客室からあえてテレビと時計を排除し、「現代を休む」という圧倒的な非日常体験を提供しました。それは、西洋的な高級ホテルの模倣ではない、全く新しい価値の提案でした。

この成功が、星野リゾートを単なる「再生請負人」から、日本の観光をリードする「ホスピタリティ・イノベーター」へと変貌させたのです。

まとめ

倒産寸前の温泉旅館が、なぜ予約の取れない人気リゾートに生まれ変わるのか。

その答えは、魔法のようなひらめきではなく、過去のしがらみを断ち切る覚悟と、データという客観的な事実に基づき、再現可能な「方程式」を粘り強く構築したことにありました。

ITシステムをリプレイスするように、古い経営システムを大胆に刷新し、新しいOSをインストールする。星野リゾートの再生術は、まさに経営という名の一大プロジェクトだったのです。

さて、今回は星野リゾートの原点である「再生」の物語を解剖しました。次回は、この成功を支える、もう一つの重要な心臓部、マニュアルに頼らずとも驚きと感動を生み出す、そのユニークな「組織」の秘密に迫ってみたいと思います。

それでは、また次の探求でお会いしましょう。

再生の物語を、仕掛け人の言葉でさらに深く

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