こんにちは、カジです。
全5回にわたりお届けしてきた「ヤマト運輸」のビジネス解体新書も、今回が最終回です。
第1回で「発明」され、第2回で「実装」され、第3回で巨大な「ネットワーク」となり、第4回でECという「DDoS攻撃」を乗り越えたこのシステム。
しかし、システム運用に「終わり」はありません。
今、ヤマト運輸は、そして日本の物流全体は、かつてないほど深刻な「仕様変更」を迫られています。
それが、皆さんもよく耳にする「2024年問題(ドライバーの時間外労働規制)」や、急速な少子高齢化による「計算リソース(労働力)の枯渇」です。
これまでの「人海戦術」や「根性」というパッチ当てでは、もうシステムを維持できない。
最終回となる今回は、そんな極限状態の中でヤマト運輸が描こうとしている、全く新しい「次世代物流OS」の設計図を読み解きます。
※この記事に掲載されている挿絵は、内容の理解を助けるためのイメージであり、実在の人物、製品、団体等を示すものではありません。
「経験と勘」から「データとアルゴリズム」へ

これまでの物流現場は、ベテランのセールスドライバーや運行管理者の「職人技(経験と勘)」によって支えられてきました。
「この時期は荷物が増えるはずだ」「このルートなら抜け道がある」
これらは素晴らしいスキルですが、属人性が高く、継承が難しい「レガシーコード」でもあります。
ヤマト運輸が現在進めているDX(デジタルトランスフォーメーション)の本質は、この属人性を排除し、すべてを「データとアルゴリズム」に置き換えることです。
例えば、デジタルツイン。
仮想空間上に、リアルな都市や物流ネットワークを完全に再現し、AIシミュレーションを行う。「明日の荷物量はこれくらいだから、トラックは何台、人員は何人必要だ」というリソース配分を、人間が悩む前にAIが弾き出す。
これは、サーバーの負荷に応じて自動的にスペックを調整する「オートスケーリング」のようなものです。
貴重な「人」のリソースを、荷物を運ぶことや、お客様とのコミュニケーションといった「人間にしかできない処理」に集中させるために、バックエンドの処理は徹底的に自動化する。それが、労働力不足という制約に対する、エンジニアリングとしての解答です。
自前主義の崩壊と「フィジカルインターネット」

もう一つの大きな変化は、「自前主義からの脱却」です。
かつてヤマト運輸は、集荷から配達まで、すべてを自社のネットワーク(イントラネット)で完結させることに誇りを持っていました。
しかし、もはや一社単独で全国の物流を支えることは不可能な時代になりました。
そこで登場するのが、「フィジカルインターネット」という概念です。
これは、インターネットが異なるプロバイダ同士をつないで世界中と通信できるように、物流も企業の枠を超えてトラックや倉庫をシェアし合おうという構想です。
ヤマト運輸が日本郵便と提携し、メール便などの配送を委託したニュースは、業界に衝撃を与えました。ライバル同士が手を組むなんて、以前なら考えられなかったことです。
しかし、システム的に見れば、これは非常に合理的な「API連携」です。
得意な領域は自社で深め、効率が悪くなる領域は他社のAPI(配送網)を利用する。
そうやって、社会全体で物流リソースを最適化していく。
ヤマト運輸は、閉じた「私企業」のシステムから、よりオープンで接続性の高い「社会共通のプラットフォーム」へと、そのアーキテクチャを根本から書き換えようとしているのです。
終わらない「発明」の物語
1976年、小倉昌男氏がたった一枚の設計図から始めた「宅急便」。
それは、約半世紀の時を経て、私たちの生活になくてはならない「空気」のような存在になりました。
私がこのシリーズを通して最も感動したのは、彼らが一度完成した成功モデルに安住せず、常に自己否定と再構築を繰り返している点です。
規制と戦い、ネットワークを張り巡らせ、ECの波に揉まれ、そして今、データとAIでまた新しい姿に生まれ変わろうとしている。
それはまるで、常に最新のバージョンへとアップデートされ続ける、巨大で愛すべき「未完成のソフトウェア」のようです。
物流は、止まりません。
私たちが明日、誰かに「想い」を送ろうとする限り、このシステムは動き続け、進化し続けるでしょう。
その裏側で、黒猫のマークをつけたエンジニア(ドライバー)たちが、今日も走り回っていることを想像しながら、このシリーズを締めくくりたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
また、次の「ビジネス解体新書」でお会いしましょう。

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