【人間と機械の融合】宅急便を動かす「最強の現場」の設計思想

ヤマト運輸

こんにちは、カジです。

前回は、ヤマト運輸の二代目社長・小倉昌男氏が、いかにして「宅急便」という、前例のない社会インフラの「設計図」を描き上げたか、その創世記の物語を紐解きました。常識という名の壁を打ち破り、ついにOSからのインストール許可を得た、革命的なアプリケーション。しかし、それはまだ一枚の設計図にすぎません。

ITの世界では、どれほど美しい設計図も、それを現実に動かす「実装」が伴わなければ価値を持ちません。

第2回となる今回は、まさにその心臓部。ヤマト運輸が、あの壮大な構想をいかにして血の通ったサービスへと昇華させたのか。その鍵を握る「セールスドライバー」という人間中心の仕組みと、それを支える「情報システム」という神経網、この二つの見事な融合について解剖していきたいと思います。

※この記事に掲載されている挿絵は、内容の理解を助けるためのイメージであり、実在の人物、製品、団体等を示すものではありません。

なぜ「配達員」ではなく「セールスドライバー」なのか?

宅急便のシステムを語る上で、絶対に欠かすことのできない存在。それが「セールスドライバー」です。 彼らは、単に荷物を運ぶ「配達員」ではありません。その名称が示す通り、集荷(セールス)と配達(ドライバー)の両方の機能を一人で担います。

これは、システム設計の観点から見ると、極めて画期的な発明でした。 考えてみてください。セールスドライバーは、顧客と直接顔を合わせる、ネットワークの最末端の「インターフェース」です。彼らは荷物を届けるだけでなく、その場で新しい荷物を預かり、代金を受け取り、時には顧客の要望やクレームといった「生きたデータ」を収集するセンサーの役割も果たします。

もし、セールス部門とドライバー部門が分かれていたらどうでしょう。顧客は荷物を送るために別の窓口に連絡し、ドライバーはただ運ぶだけ。現場で得られるはずの貴重な情報は、組織の壁によって分断され、失われてしまいます。

小倉氏が設計したのは、一人の人間が責任を持ってエリアを担当し、顧客との関係性を築きながら、物流の入り口から出口までを一気通貫で担う、自律分散型のネットワークでした。セールスドライバーとは、いわば「歩く営業所」であり、ヤマト運輸という巨大システムの信頼性を一身に背負う、最も重要な「ヒューマン・インターフェース」なのです。

宅急便の神経網「NEKOシステム」の誕生

しかし、全国に散らばる何万人もの「ヒューマン・インターフェース」が、それぞれバラバラに動いていては、システムとして機能しません。彼らを一つの有機的なネットワークとして結びつけ、リアルタイムで情報を伝達・処理する「中央神経系」が必要不可欠でした。

その役割を担ったのが、1979年に稼働を開始した、ヤマト運輸の総合情報システム、通称「NEKOシステム」です。

当初の目的は、日々発生する膨大な量の荷物の情報を正確に管理し、運賃計算を自動化することでした。手作業で伝票を処理していては、宅急便の爆発的な成長に到底追いつけなかったからです。

しかし、NEKOシステムの真価は、単なる業務効率化に留まりませんでした。 荷物一つひとつにバーコードを貼り付け、それをセールスドライバーが持つ携帯端末でスキャンする。その情報が瞬時に中央のサーバーに送られ、「今、どの荷物が、どこにあるか」を完全に可視化したのです。

今でこそ当たり前の「荷物追跡システム」は、このNEKOシステムが可能にした、当時としては革命的なサービスでした。これは、顧客に絶大な「安心感」を与えただけでなく、ヤマト運輸自身にとっても、自社のネットワーク内を流れる無数の「パケット(荷物)」の状態を完全に把握するための、強力な監視・制御システムとなったのです。

「人」と「機械」の見事な融合

セールスドライバーという最強の「現場力」と、NEKOシステムという盤石の「情報力」。 宅急便の強さの秘密は、この二つが、どちらか一方に偏るのではなく、見事に融合している点にあります。

セールスドライバーが、携帯端末(ポータブルポス)という「武器」を持つことで、彼らの能力は飛躍的に向上しました。顧客の目の前で正確な料金を計算し、配達完了の情報をリアルタイムで送信する。彼らは、ネットワークの末端で自律的に判断を下せる、高機能な「ノード(接点)」となったのです。

一方で、NEKOシステムは、彼ら末端のノードから集まってくる膨大なデータを解析し、最適な配送ルートを計算したり、物量の波動を予測したりすることで、ネットワーク全体の効率を最大化します。

「人」の持つ温かみや柔軟性と、「機械」の持つ正確性や処理能力。この両輪が噛み合うことで初めて、宅急便という巨大で複雑なシステムは、日々、安定して稼働し続けることができるのです。

設計図の段階では、ただの夢物語だった「全国翌日配達」。それを現実に変えたのは、人間の力を信じ、それをテクノロジーによって最大限に引き出すという、卓越した「実装」の思想でした。

さて、システムを動かす「人間」と「情報」の仕組みは整いました。しかし、それだけでは荷物は動きません。次回は、このシステムを物理的に支える、全国に張り巡らせた物流拠点網、いわば国家の「大動脈」の設計思想に迫っていきたいと思います。

デスクの上に、小さな物流革命を。

コメント

ご注意: 記事と無関係な広告・宣伝はご遠慮ください。 コメント内にURLを含めると、公開前に管理者の承認が必要となり、公開が遅れます。必要な場合を除き、URLの記載は避けてください。
タイトルとURLをコピーしました