こんにちは、カジです。
全5回にわたる「サイゼリヤ」の探求も、今回でついに最終回となります。これまで私たちは、価格革命を起こした「創業の哲学」、それを支える「バリューチェーン」、1秒単位で効率を追求する「店舗の科学」、そしてノルマなしで人を輝かせる「組織論」を解剖してきました。
しかし、どれほど完成されたシステムも、時代の変化という巨大な波の前では、その価値を問われ続けます。デジタル化の加速、グローバル経済の不確実性、そして日本を覆う物価高騰の嵐。あの巨大な経営システムは、これらの外部環境の変化に対し、どのような「次の一手」を準備しているのでしょうか。
ITエンジニアである私は、企業の真価とは、過去の成功そのものではなく、未来の不確実性に適応するための、自己変革(アップデート)能力にあると考えています。
今回は、彼らが描く壮大な「未来の設計図」を解剖し、この探求の旅を締めくくりたいと思います。
※この記事に掲載されている挿絵は、内容の理解を助けるためのイメージであり、実在の人物、製品、団体等を示すものではありません。
サイゼリヤ流DX:「後出しじゃんけん」の論理

サイゼリヤの未来を語る上で、避けては通れないのが「DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。しかし、彼らのアプローチは、流行に飛びつくような性急なものではありません。
長らく現金主義を貫いてきた彼らが、キャッシュレス決済やセルフオーダーシステムを導入し始めたのは、競合他社に比べて、決して早くはありませんでした。ITエンジニアの私には、これが意図的な戦略に見えます。
これは、他社の導入事例を徹底的に観察し、テクノロジーが十分に成熟し、コストが下がり、そして何より「本当に顧客と従業員のためになる」と確信できた段階で、最適化された形で導入する「レイトムーバー・アドバンテージ」の思想です。
闇雲に最新技術を導入するのではなく、「問題解決」という原点から、最も合理的で費用対効果の高い手段を選択する。ここにもまた、彼らの科学的でブレない哲学が貫かれているのです。
ビジネスシステムの「輸出」という名の海外展開
サイゼリヤの未来を語る上で、もう一つの重要な柱が「海外展開」です。特に、中国市場での成功は目覚ましく、今や全店舗数の3分の1以上を海外が占めるに至っています。
しかし、彼らが輸出しているのは、単に「イタリアンレストラン」というブランドではありません。彼らが輸出しているのは、これまで私たちが解剖してきた「経営システム」そのものです。
垂直統合によるコスト管理、人時生産性による組織運営といった中核OSはそのままに、味付けやメニュー構成といった「表層」の部分だけを、現地の文化に合わせて柔軟に調整(ローカライズ)する。この強靭で適応性の高いモデルこそが、彼らのスケーラブルな拡大を可能にしているのです。
経済が減速する中国で、むしろその価値提案が輝きを増しているという事実は、このシステムの普遍的な強さを何よりも雄弁に物語っています。
値上げをしない、という「最強の攻撃」

さて、最後のピースは、現在の日本が直面する「物価高騰」という最大の逆風に対する航海術です。
多くの飲食店が値上げを余儀なくされる中、サイゼリヤ経営陣は「値上げはしない」という方針を繰り返し表明しています。
これは、単なる我慢比べではありません。ITエンジニアの私には、これが極めて攻撃的な市場シェア獲得戦略に映ります。
競合が価格転嫁で顧客離れのリスクを負う中、彼らは徹底した効率改善と、好調な海外事業の利益を原資に、国内のコスト上昇を吸収する。これにより、「安くて良いもの」を求める顧客の受け皿となり、絶対的なバリューリーダーとしての地位を、さらに盤石なものにしようとしているのです。
これは、これまで解剖してきた巨大な経営システムの全てを武器として初めて可能になる、王者の戦略なのです。
まとめ
全5回にわたるサイゼリヤの探求。その結論は、極めてシンプルでした。
彼らの強さの源泉は、創業時に確立された「人のため」という揺るぎない哲学と、その哲学を物理的に可能にするため、科学的な合理性を積み重ねて構築された、一つの巨大な「経営システム」にありました。
そして、そのシステムは、常に時代の変化を冷静に分析し、自らをアップデートし続けることで、未来の荒波をも乗り越えようとしています。
この長い探求の旅に、ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。『カジのビジネス解体新書』の探求は、まだまだ続きます。また次の「なるほど!」を、一緒に見つけに行きましょう。

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