【星野リゾートの次の一手】観光の未来をどう描く?その壮大な設計図を解剖する

星野リゾート

こんにちは、カジです。

全5回にわたる「星野リゾート」の探求も、今回で一区切りとなります。これまで私たちは、倒産寸前の旅館を再生させる「方程式」、マニュアルに頼らない「組織論」、顧客の人生に寄り添う「ブランド戦略」、そして地域と共生する「仕組み」を解剖してきました。

しかし、どれほど優れたシステムも、時代の変化という大きな波の前では、陳腐化する危険性を常にはらんでいます。ポストコロナの新しい旅の価値観、深刻化する人手不足、そしてオーバーツーリズムという社会問題。星野リゾートという巨大なリゾート帝国は、これらの巨大な外部環境の変化に対し、どのような「次の一手」を準備しているのでしょうか。

ITエンジニアである私は、企業の真価とは、成功そのものではなく、成功を持続させるための自己変革(アップデート)能力にあると考えています。

今回は、彼らが描く壮大な「未来の設計図」を解剖し、この探求の旅を締めくくりたいと思います。

※この記事に掲載されている挿絵は、内容の理解を助けるためのイメージであり、実在の人物、製品、団体等を示すものではありません。

全社員が「IT人材」になる日

星野リゾートの未来戦略を語る上で、避けては通れないキーワードが「DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。しかし、彼らのDXは、単なる業務効率化ではありません。そのビジョンは「全社員IT人材化」。これは、彼らの強みである「フラットな組織文化」を、テクノロジーの力でさらに進化させようという、壮大な試みです。

かつて、コロナ禍で「大浴場の混雑状況を可視化したい」というニーズが生まれた時、彼らはわずか6週間で自社アプリを開発しました。これを可能にしたのが、現場のスタッフ自身が簡単なアプリケーションを開発できる「ノーコード・ローコードツール」の積極的な活用です。

これは、IT部門という中央集権的な組織に頼るのではなく、顧客に最も近い現場スタッフ一人ひとりに、問題を解決するための「デジタルの武器」を与えることに他なりません。かつて顧客満足度調査という「データ」で厨房を改革したように、今度は「テクノロジー」で、全社員の課題解決能力を底上げしようとしているのです。

観光の未来を「再設計」する

星野リゾートは、自社の成長だけでなく、日本の観光産業全体の未来を見据えています。星野代表が警鐘を鳴らすのが、「オーバーツーリズム」の問題です。

人気観光地に人が殺到し、地域住民の生活や自然環境を脅かすこの問題に対し、彼は明確な解決策を提示します。それは、観光客が集中する都市部以外の「日本の地方」に、世界を魅了する新たな観光資源を開発し、人の流れを分散させることです。

その鍵となるのが「国立公園」です。手つかずの自然が残る日本の国立公園内に、魅力的な宿泊施設やアクティビティを整備することで、新たな旅の目的地を創造しようとしています。

さらに、短期滞在で多くの場所を巡る、環境負荷の高い旅から、一つの場所に長く滞在し、地域経済に貢献する「ステークホルダーツーリズム」への転換も提唱しています。

これは、単なるホテル経営者の視点ではありません。日本の観光というOS(オペレーティングシステム)全体を、より持続可能で、より豊かなものへとアップデートしようとする、壮大な社会システム設計の視点なのです。

そして、世界へ

国内での基盤を固めると同時に、星野リゾートの目は、明確に「世界」へと向いています。海外売上高比率を将来的に70%まで引き上げるという目標を掲げ、特に最重要市場と位置づける北米で、日本式の「温泉旅館」を開業する計画を進めています。

これは、単なる事業の拡大ではありません。日本の「おもてなし」という文化そのものを、世界的な輸出産業へと昇華させようという、壮大な野心です。

まとめ

星野リゾートの探求を通じて見えてきたのは、常に時代の半歩先を読み、自らを大胆に「再定義」し続ける、恐るべき自己変革能力でした。

事業承継時の「公私混同経営」からの脱却に始まり、旅館再生、マルチブランド展開、そしてDXとグローバル化。彼らは、過去の成功体験に決して安住することなく、常に新しい時代の「正解」を問い続けています。

彼らが描く未来の設計図は、もはや一企業の成長戦略の枠を超え、日本の観光産業、ひいてはサービス業全体の未来を占う、一つの壮大な社会実験と言えるのかもしれません。

全5回にわたる星野リゾートの解剖は、これにて一旦の幕引きとなります。この長い探求の旅に、ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

『カジのビジネス解体新書』の探求は、まだまだ続きます。また次の「なるほど!」を、一緒に見つけに行きましょう。

未来の旅と、未来の自分をデザインする

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