【星野リゾートのブランド戦略】星のや, 界, OMO…なぜ多彩なブランドを展開するのか?

星野リゾート

こんにちは、カジです。

前回の探求では、星野リゾートの強さの秘密が、マニュアルに頼らずともスタッフ一人ひとりの能力を最大化する、見事な「組織論」にあることを解き明かしました。

強力な組織というエンジンを手に入れた彼らが、次に挑んだのは「誰に、どのような価値を届けるのか」という、極めて高度な問いでした。もし、すべての施設が同じ「星野リゾート」という名前だったら、どうなっていたでしょうか。おそらく、ここまで多くの人々を魅了することはできなかったでしょう。

星のや、界、リゾナーレ、OMO、BEB… なぜ彼らは、これほどまでに多彩なブランドを、それぞれ全く異なるコンセプトで展開しているのか。

ITエンジニアである私は、この戦略を、単なるホテルチェーンの多角化とは見ていません。これは、多様な顧客ニーズ(リクエスト)に対し、それぞれ最適化された最高の体験(レスポンス)を返すための、見事なポートフォリオ戦略であり、顧客を生涯にわたって自社のエコシステムに留めるための顧客体験プラットフォームの設計図なのです。

今回は、この見事なマルチブランド戦略の秘密を解剖していきます。

※この記事に掲載されている挿絵は、内容の理解を助けるためのイメージであり、実在の人物、製品、団体等を示すものではありません。

旅の目的は、人の数だけ存在する

星野リゾートのマルチブランド戦略の根底には、「旅の目的は、顧客のライフステージや同行者によって変化する」という、極めてシンプルな洞察があります。

例えば、ある人が、

  • 20代の頃は、仲間と気軽に「BEB」へ。
  • 30代になり、家族ができたら「リゾナーレ」でアクティブな休日を。
  • 40代、夫婦水入らずの時間を過ごすなら、温泉旅館「」。
  • そして人生の節目には、究極の非日常を求めて「星のや」へ。

このように、顧客の人生に寄り添い、あらゆる旅の動機に「星野リゾート」という選択肢を提示する。これにより、顧客を一度きりの客ではなく、生涯にわたるパートナーとして捉える、壮大な顧客戦略が成り立っているのです。

それでは、それぞれのブランドが、どのような「問い」に応えるために設計されているのか、見ていきましょう。

体験のポートフォリオ:5つのブランドの設計思想

1. 星のや:「圧倒的非日常」という名の最高傑作

「星のや」が応えるのは、「日常から完全に解放されたい」という、究極の問いです。客室からテレビを排し、その土地の文化や自然と深く融合した独創的な空間で、ゲストを現実から切り離します。ラグジュアリーの概念そのものを再定義する、まさに星野リゾートの思想を体現したフラッグシップです。

2. 界:「地域の魅力」を再発見する温泉旅館

「界」が応えるのは、「質の高い温泉と、その土地ならではの文化に触れたい」という、知的好奇心に満ちた問い。津軽三味線の生演奏や加賀友禅をあしらった客室など、地域の伝統文化を体験する「ご当地楽」を通じて、「王道なのに、新しい」温泉旅館の旅を提供します。

3. リゾナーレ:「大人も子供も」楽しめるリゾート

「リゾナーレ」が応えるのは、「家族みんなで、最高の思い出を作りたい」という、愛情あふれる問いです。洗練されたデザイン空間の中に、子供が夢中になるアクティビティと、大人が心から寛げる仕掛けを両立させています。「大人のためのファミリーリゾート」というコンセプトの通り、誰も我慢しない休日を設計します。

4. OMO(おも):「街のテンション」を上げる都市観光ホテル

「OMO」が応えるのは、「ガイドブックに載っていない、その街の本当の魅力を知りたい」という、探求者の問い。スタッフが「OMOレンジャー」としてディープな街を案内し、ホテルを単なる寝る場所から「街を探検するための基地」へと変貌させます。

5. BEB(ベブ):「仲間とルーズに」過ごすホテル

「BEB」が応えるのは、「堅苦しいルールなしで、仲間と気軽に旅がしたい」という、若者たちの問いです。24時間使えるパブリックスペース「TAMARIBA」や飲食物の持ち込み自由など、「居酒屋以上、旅未満」をコンセプトに、自由で気ままな滞在スタイルを提案します。

まとめ

星野リゾートのマルチブランド戦略。

それは、単にホテルを増やしているのではなく、人々の人生における、あらゆる「旅の物語」の受け皿を用意している、ということでした。

それぞれのブランドが、明確なコンセプトとターゲットを持つことで、顧客は自分のニーズに迷うことなく最適な選択ができます。そして、一度「星野リゾート」の提供する体験の質の高さに触れた顧客は、次のライフステージで、また別の「星野リゾート」の扉を叩くことになるのです。

顧客を「」ではなく「」で捉える。この長期的な視点こそが、彼らが熱狂的なリピーターを生み出し続ける、強力なシステムの正体だったのです。

さて、今回は見事なブランド戦略の設計図を解剖しました。次回は、これらのブランドがいかにして、ただのホテルではなく、その「地域」そのもののファンを生み出しているのか。その驚くべき「共生」の仕組みに迫ります。

それでは、また次の探求でお会いしましょう。

ブランドの設計思想を、その原点と旅の道具から深く知る

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