こんにちは、カジです。
これまでの探求で、私たちはワークマンの強さがいかにして築かれてきたかを解剖してきました。しかし、どれほど強固な基盤があっても、成長には限界が訪れます。プロ向け市場が飽和する中、彼らはいかにしてその壁を突破したのでしょうか。
その答えが、2018年に始まった「WORKMAN Plus」という名の、静かな、しかし偉大な革命でした。
多くの人はこれを「新業態」と呼びますが、ITエンジニアである私は、これを全く別の視点から見ています。これは、製品という強力な「コアエンジン」は一切変えずに、店舗という「ユーザーインターフェイス」だけを刷新した、見事な「システムリプレイスメント」だったのです。
今回は、ワークマンが「作業服の店」から脱皮し、新たな市場を創造した、その変身の瞬間を解き明かしていきます。
※この記事に掲載されている挿絵は、内容の理解を助けるためのイメージであり、実在の人物、製品、団体等を示すものではありません。
変革の触媒:データが示した「ブルーオーシャン」
変革のきっかけは、社内の会議室ではなく、市場そのものから生まれました。バイク乗りやキャンパーたちが、プロ向け製品に新たな価値を「再発見」し始めたのです。
この動きを、ワークマンの経営陣は見逃しませんでした。SNSでの口コミや販売データを分析し、彼らは確信します。「手頃な価格で高性能なウェアを求める、まだ満たされていない巨大な潜在市場(ブルーオーシャン)」が存在する、と。
ここでの重要な点は、彼らが架空のペルソナのために新製品を開発したのではない、という点です。そうではなく、既存の製品が、新たなユーザーに求められているという現実のデータに、ただ耳を傾けたのです。
「システムリプレイスメント」の設計図

そして2018年9月、歴史的な一手として「WORKMAN Plus」1号店が、ショッピングモール「ららぽーと立川立飛」にオープンします。
この戦略の天才的な点は、そこで販売される商品が、既存のワークマン店舗で扱っているものと100%同じだったことです。
ITエンジニアの視点から見れば、これは完璧なA/Bテストです。製品(コアエンジン)という変数を完全に固定し、店舗(ユーザーインターフェイス)の変更が、顧客の行動にどのような影響を与えるかを純粋に測定したのです。
結果は劇的でした。
従来の倉庫のような店舗から、明るく、マネキンがコーディネートを提案するアパレル店のような空間へ。この「見せ方」の変更だけで、2,900円の「安い作業着」は、「驚くほど手頃な、高性能アウトドアジャケット」へと、その価値を完全に再定義されたのです。
データ駆動の進化:「#ワークマン女子」へ

WORKMAN Plusの成功は、ゴールではありませんでした。それは、次なる進化のための、壮大なデータ収集の始まりでした。
Plusの販売データを分析した結果、経営陣は「驚くほど多くの女性客が来店している」という新たな事実に気づきます。そして、このデータに基づき、よりターゲットを絞った次世代業態「#ワークマン女子」が誕生します。
この店舗は、さらに進化していました。SNSで自然発生したハッシュタグを店名に冠し、店内には「インスタ映え」を意識したフォトスポットを多数設置。店舗という物理的なインターフェースを、SNSでの拡散というデジタルな体験と見事に融合させたのです。
まとめ:製品を変えずに、価値を再定義する
ワークマンの変身劇は、私たちに重要な教訓を教えてくれます。
それは、イノベーションとは、必ずしも全く新しい製品を生み出すことだけではない、ということです。
自社の持つ本質的な強み(コアエンジン)を深く理解し、それを求める新たな顧客に合わせて、見せ方(ユーザーインターフェ-ス)を再設計する。
ワークマンが成し遂げたのは、まさにこの「システムリプレイスメント」でした。彼らは製品を変えることなく、顧客との「接点」を変えることで、全く新しい市場を創造してしまったのです。
さて、今回はワークマンの華麗なる変身の物語を解剖しました。次回はいよいよ最終回。アパレル業界の巨人となった彼らが、ユニクロという絶対王者とどう向き合い、未来の設計図を描いていくのかを考察します。
それでは、また次の探求でお会いしましょう。
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